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2013全国大会・研修会Fの講師をお願いした辻川さんから事後的コメントをいただきました

 平成25年11月14日に東京都(会場:学習院大学)で開催された全史料協全国大会の研修会F「文書館専門職(アーキビスト)」の講師、辻川敦氏 (尼崎市立地域研究史料館長)から事後的コメントをいただきました。

 当日スクリーンに投影されたプレゼン資料(PDF化)もご提供いただいています。
 合わせてご覧ください。

 
全史料協全国大会研修会「文書館専門職(アーキビスト)」の講義を終えて
 
辻川敦(尼崎市立地域研究史料館長)
 
研修講師依頼

 かつて『歴史学研究』731号(1999.12)に安藤正人さんの著書『記録史料学と現代-アーカイブズの科学をめざして-』(吉川弘文館、1998)の書評を執筆した際、こんなことを書いたことがあります。
「安藤氏の基本的立場は、欧米をはじめとする世界の取り組みと成果に学びつつ実践するなかで、日本の現状に即した記録史料学を構築しようとするものである。(中略)安藤氏の提起を受けとめるスタンスとして重要なのは、議論のおよぶさまざまなテーマについて各現場での実践を通して検証し、現実に即した方法論を模索していくことであろう」
 安藤本の書評なので「安藤氏の」という固有名詞がついているわけで、その部分を「世界のアーカイブズ学の理論と実践」と読み替えても成り立つ主張です。言わんとするところは「海外事例の紹介や理論的考察から発する問題提起に対して、現場の実践に立脚した意味あるカウンターパートの提起を行ない、すり合わせていくことこそが実践的なアーカイブズ学を生み出すのであって、現場の人間こそ理論研究や方法論の面でがんばらないとだめですよ」ということです。
 このような考え方に立っているので、大会研修会において現場目線で講義するよう依頼されたことはたいへんありがたく、ぜひ要請にこたえなければと思いました。最初に打診があったのは、今年の7月に調査・研究委員会の富田健司さん(芳賀町総合情報館)からだったと記憶しています。尼崎の史料館を管理運営する立場から問題提起して欲しいというお話だったので、館の日常業務のなかで研修素材を集めて講義を組み立てることにしました。

講義内容の前半部分

 とはいえ、研修という位置付けですから、そもそもアーキビストの専門性とは何か、あるいは専門職制度の世界と日本の実情といったことにまったくふれず、一現場の事例ばかりを紹介しても普遍性に欠ける講義になってしまいます。そこで、いささか付け焼き刃ではありましたが、7月から8月にかけて富田さんのアドバイスもいただきつつ急いで参考文献のコピーを集め、講義内容の前半「1文書館専門職の制度・理論・現状」「2現在、国内で実施されている養成カリキュラム」を準備しました。
 なお、この前半部分の講義で参照した何本かの参考文献のなかで、もっとも内容が包括的かつ現状評価が適切で、有意義な問題提起であると感じたのが森本祥子(さちこ)さんの論文「日本における養成課程と資格制度の提案」(日本アーカイブズ学会『アーカイブズ学研究』No.9、2008.11)でした。文書館専門職について関心や問題意識をお持ちで、なおかつこの森本論文を未読の方は、ぜひ精読されることをお勧めします。

最大のネックは講義時間

 このように、前半後半の組み立てイメージは比較的早くできたのですが、準備にはそれなりに時間を要しました。パワーポイントが出来上がったのは11月に入ってからのことで、なんとか必要と思われる要素を詰め込んだのですが、どう考えても制度・理論の前半と事例紹介の後半を合わせて1時間では終わりそうにありません。
 実は講義に望む直前まで、そのことが最大のプレッシャーでした。事前に何度も脳内シュミレーションを行ない、削れる部分は全部そぎ落とし、さらに展開をしっかり頭のなかに入れてとにかくよどみなく早口で話せるように工夫して。最後は当日の新幹線のなかでもう一度シュミレーションをやって、不安が残りつつもまあなんとかなるかな、という状態で本番に臨みました。
 こういう次第なので、少々飛ばし過ぎで聞きづらい部分もあったかと思います。それでもなんとか時間内に起承転結をつけることができて(もっともやはり後半の話題のいくつかは省きましたが)、講義を終えたいまは正直ほっとしています。

講義後になって気付いたこと

 それと同時に、研修会後の総会のなかで学習院大学の高埜利彦さんから、私の講義が有意義なものだったというご発言をいただき、「ああ、伝えたかったことが伝わりご理解いただけたのだな」と、講師としてはたいへん光栄な思いでした。そればかりでなく、その後の会場と壇上の間の意見交換のなかで、全史料協としてのこの間の専門職問題の位置付け、それをめぐる役員会や委員会の議論のなかで今回の研修テーマが設定され、私に対して出講要請がなされたことなどをお聞きして、あらためて今回の研修会の意味合い、講師を務めさせていただいたことの重大さを再認識しました。
 準備段階では正直、そのあたりのことをすこし軽く考えていました。研修会場にベテランの方々、私以上に専門職経験や情報・学識をお持ちのみなさんまでが座っているのを見て、実は少々意外だったのです。ですが、その後の議論を聞いて納得がいきました。
 ”アーキビスト”たるもの、こんなうかつなことではいけませんね。

おわりに

 大会に先立って全史料協が実施したアンケート結果からもわかるように、日本の文書館専門職・アーキビストを取り巻く状況には、引き続き厳しいものがあります。なぜ専門職が必要なのか、文書館で働くスタッフに求められる専門性とは何か。そのことに対する組織の、そして社会全体の理解と認知はかならずしも十分ではなく、制度的裏付けも不足しているというのが現状でしょう。
 もっとも重要なことは、文書館サービスの現場で実績をあげ、その裏付けをもって専門職の必要性と専門性の内容を示し、理解を得ていくことです。尼崎では1990年代前半の業務改革以来、日々そのことに努めてきました(この点について、関心のある方はぜひ国立公文書館『アーカイブズ』第51号-2013.10-掲載の尼崎論考*をご覧ください)。その結果、いまでは多少とも地域研究史料館を知る人であれば、市民であれ市職員であれ専門職の必要性に疑問を差し挟む人はいないと思います。
 研修を通して、私がみなさんにお伝えしたかったことのひとつはこの点でしたが、十分にお伝えできたかどうか。
 講義のなかでは、常にみずから学び続けるのが専門職・アーキビストである、ということもお話ししました。尼崎のみならず、多くの現場事例のうえに立って、専門職のみなさん、あるいは専門職をめざす若い世代のみなさんが主体的にこの問題を考え、実践して行っていただければと思います。
 この最後の課題は、冒頭でふれた拙稿=安藤本書評の問題提起にループします。

*辻川敦・久保庭萌「市民とともに歩む尼崎市立地域研究史料館の取り組み」
http://www.archives.go.jp/about/publication/archives/051.html

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